出世 - 目指すべきか
日本人の仕事と出世の考え方
仕事に対する考え方
総務省の調査によると、日本人の就業人口に占める雇用者の割合は、正規・非正規合わせて8割以上と言われています。
また、内閣府による世論調査(平成26年度)では、「働く目的」として最も多くの人が答えた項目の割合は、以下のとおりです。
- 「お金を得るために働く」 51.0%
- 「社会の一員として,務めを果たすために働く」 14.7%
- 「自分の才能や能力を発揮するために働く」 8.8%
- 「生きがいをみつけるために働く」 21.3%
同じく「収入と自由時間についての考え方」については、
- 「自由時間をもっと増やしたい」 37.7%
- 「収入をもっと増やしたい」 48.3%
- 「どちらともいえない」 13.0%
出世に対する考え方
ところで、クロス・マーケティング社の若手社員の出世・昇進意識調査によれば、
- 「絶対に出世したいと思っている」 12.0%
- 「できれば出世したいと思っている」 28.8%
- 「出世はしたくないと思っている」 15.8%
- 「出世にはあまりこだわっていない」 43.4%
となっています。より詳細には、
「出世したい理由」
- 「給与・年収が上がるから」 79.7%
- 「自分の成長が実感できるから」 40.0%
- 「高い目標を持って働けるから」 37.0%
「出世したくない理由」
- 「ワークライフバランスのとれた生活をしたいから」 46.6%
- 「責任の範囲が広がるのが嫌だから」 38.0%
- 「出世をしても給与・年収がそれほど上がらないから」 34.0%
「出世をするために必要と思うこと」
- 「仕事で成果をあげること」 75.6%
- 「上司やメンバーとの良好な人間関係」 62.2%
- 「社内・社外を含めた幅広い人脈」 44.5%
仕事観まとめ
以上の結果をまとめると、
『日本人の多くは、お金を得るために働く。その一方で自由時間も必要としている。
できれば収入を増やしたいが、収入を増やすためには出世する必要があると考えている。出世を目指すことで高い目標、成長、やりがいも得られる。
出世を目指すことで得るものと失うもののトレードオフがあると考えており、出世はしたいが、そのために責任を負ったり時間を使ったりしたくないと思っている。』
このように解釈できます。
このトレードオフ構造の中では、
- 「出世のためには何を失っても良い」
- 「出世のために何一つ失いたくない」
の二つが両極の考え方となりますが、多くの方はこの間でバランスを取っていると思われます。
そこで、この記事では出世のリターンとコストについて考えてみます。
先ほどの調査をもとに、リターンとコストを以下のようにまとめてみました。
以下、詳細に検討していきます。
出世のリターン
人脈
出世のために人脈を広げることが必要であり、出世することでさらに人脈を広げるチャンスが得られます。
理屈としては、出世を目指すことで人脈が広がることは確かでしょう。
成長
人脈と同じく、出世のためには能力の成長が必要であり、さらに出世することでより大きな成長が期待できます。
収入
厚生労働省の賃金構造基本統計調査(2014年)を元にデータを抜粋し、以下のようにまとめました。
年収 【万円】 | 労働者数 【万人】 | 労働者割合 【%】 | 期待値 【万円】 | |
---|---|---|---|---|
部長級 | 1,029 | 39 | 3.2 | 18.6 |
課長級 | 824 | 96 | 7.8 | 29.9 |
係長級 | 607 | 83 | 6.8 | 11.2 |
職長級 | 550 | 24 | 1.9 | 2.1 |
非役職 | 442 | 986 | 80.3 | 0.0 |
ところで、以前の記事で女性は不当に給与が低く抑えれていると指摘しました。
男性と女性では状況が大きく異なりますので、男女別で分けて考えます。
男性の収入データ
年収 【万円】 | 労働者数 【万人】 | 労働者割合 【%】 | 期待値 【万円】 | |
---|---|---|---|---|
部長級 | 1,038 | 37 | 4.3 | 23.9 |
課長級 | 836 | 87 | 10.2 | 36.6 |
係長級 | 619 | 70 | 8.2 | 11.6 |
職長級 | 558 | 23 | 2.7 | 2.1 |
非役職 | 477 | 639 | 74.7 | 0.0 |
単純に概算すると、男性において、
- 部長になれる人の割合は4.3%で年収は561万円アップ
- 課長になれる人の割合は10.2%で年収は359万円アップ
となります。
女性の収入データ
年収 【万円】 | 労働者数 【万人】 | 労働者割合 【%】 | 期待値 【万円】 | |
---|---|---|---|---|
部長級 | 889 | 2 | 0.6 | 3.2 |
課長級 | 711 | 9 | 2.4 | 7.9 |
係長級 | 548 | 14 | 3.6 | 6.2 |
職長級 | 396 | 1 | 0.3 | 0.0 |
非役職 | 379 | 346 | 93.1 | 0.0 |
女性においては、
- 部長になれる人の割合は0.6%で年収は511万円アップ
- 課長になれる人の割合は2.4%で年収は333万円アップ
となります。
やりがい
責任ある立場で、部下を使って大きな仕事を達成することにやりがいを感じる人がいることは確かでしょう。
その一方で、部下を持たずに自分の好きな作業をすることにやりがいを感じる人もいるはずです。また、収入のために出世して部下を持ったものの、実は部下のマネージメントにはやりがいを感じないという人もいます。
近年は、マネージャーとしての出世コースだけでなく、プロフェッショナルとしての出世コース、フェロー制度などを設けている組織もあります。この制度によって、仕事にやりがいを見出せるようになる人もいるでしょう。
リターンの構造
人脈と能力の成長(手段)によって、収入とやりがいが向上される(目的)という構造です。
人脈と成長を目的と考えることもできますし、やりがいについては絶対的な評価が難しく、明確な結論を出すことはできそうにありません。収入は金額で絶対値がはっきりしていますので、出世のリターンとしては収入が最も明確な要素と言えます。
出世のコスト
時間
こちらも賃金構造基本統計調査(2014年)のデータを元に以下にまとめます。
年齢 【歳】 | 勤続 【年】 | 所定労働 【時間】 | 超過労働 【時間】 | |
---|---|---|---|---|
部長級 | 52.4 | 23.9 | 161 | 2 |
課長級 | 48 | 21.8 | 160 | 4 |
係長級 | 44.1 | 18.8 | 160 | 19 |
非役職 | 38.8 | 11.5 | 160 | 17 |
意外にも、実は出世しても時間外労働時間は増えません。それどころかデータ上は出世するほど減っています。出世すると時間を拘束されて自由時間が減ってしまうと思い込みがちですが、実際にはそうではないということです。(単に管理職の勤怠管理が適当なだけかもしれませんが)
もちろん、業務時間以外にもスキルアップのために時間を使っているということも考えられます。しかし、スキルアップも一種の趣味の時間と考えることもできます。
出世するほど自由時間が増えると結論付けるのは乱暴かもしれませんが、少なくとも出世したからワークライフバランスが崩れるとは言えなそうです。
能力以上に出世するためにサービス残業している人もいるかもしれません。その場合はもちろんワークライフバランスが崩れることになるでしょう。
責任
権限や地位が高くなり、より大きな仕事・より多くの部下を持てば責任が大きくなるのは当然という気がします。
しかし、実際に責任を取るケースというのはあるでしょうか。
具体的には、降格や減俸などでしょう。せいぜい平社員レベルになっても元に戻っただけであり、そもそもこのような処罰を受けるのもレアケースです。
責任が重くなるというのもイメージが先行しているだけであって、実際には大したことはないといえます。
ただし、部下のマネージメントをする責任を負うなど、やらなければならない作業の種類が出世するほど増えることは確かでしょう。
これをどうしても受け入れられないと考える人がいても当然です。
経費
出世をしたり目指したりすると何となくお金もかかるイメージです。
人脈を広げるために飲み会などに積極的に出席したり、部下におごったり。しかし、それも重要な時に限られることを考えればさほどのコストではありません。
成長のため、ビジネス書を買ったり、スクールに通ったりするコストはどうかと考えてみても、結局は小説や漫画を買うとか、趣味に使うだけでしょう。
出世をしたり目指したりすることで、特に余分にコストがかかっているわけではないといえます。
むやみにお歳暮などを贈るようであればかなりのコストがかかると思います。効果が明確であれば合理的と考えられますが、多くの場合は無駄なのではないでしょうか。
まとめ
日本人は出世をすると得るものが大きい一方で失うものも大きいと考えています。しかし実際には、出世のリターンとして明確な収入は確実に増えますし、出世のコストとして明確な時間や経費についてはそれほど失わないという結果でした。
男性の場合
部長以上を考えると狭き門ですが、課長あたりを目指すのは現実的ですし見返りもそれなりです。一方で失うものがあるかといえば特にありません。
ですので、一般的には出世を目指してみるのがお得と考えられます。
部下のマネージメントなどは絶対に嫌だという人は、プロフェッショナルが評価される環境を求めて、そこでの出世を目指すのが合理的です。
出世は目指すべきだとしても、時間で成果を水増しして能力を高く見せるためサービス残業をしてまでというようなことはお勧めできません。楽しみながら能力や人脈を増やし、それらを最大限活用しながら無理せずに出世を目指すのが良さそうです。
女性の場合
部長以上に出世する確率はかなり低いのが実情です。さらに、出世したとしても男性ほど収入アップの効果があるわけではありません。
女性においては、一般的に、出世を特に目指さなくても良いというのが現実です。
もちろん、それが社会として望ましいという意味では当然ありません。女性を不当に扱わない職場もあるでしょうし、将来は女性の地位も向上してくる可能性はあります。
悲観ばかりしていても勿体無いので、無理せず楽しみながら人脈、能力を向上させて将来に備えるのが良いでしょう。
能力を正当に評価されにくい傾向を前提にすると、女性は人脈作りをより優先した方がより良い職場にたどり着く可能性が上がったり、より効果が高い気がします。
サービス残業するくらいなら、外に目を向ける方が道がひらけそうです。
後記
出世には人脈と能力が必要という前提で書いてきましたが、あまりに大雑把な分類です。実際には色々な要素がありますよね。後日、詳細を書いてみたいと思います。